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2月の水あび「鈴木淳夫 みずのうえPLAY」レポート

みずのうえ文化センターは、2月2日から12日にかけて、2月の水あび「鈴木淳夫みずのうえPLAY」を開催しました。作品展示から滞在制作、アーティストトーク、ワークショップまで、多岐にわたったイベントの様子をレポートします。


 

鈴木淳夫みずのうえPLAY みずのうえ展覧会
豊橋出身の現代美術家・鈴木淳夫さんの制作活動の一端を紹介するにあたり、メイン会場となるビジターセンターだけでなく、水上ビルの大豊商店街6店舗の協力を得、そこになじむ作品を作家がチョイスし、作品展示を行いました。

みずのうえビジターセンター

みずのうえビジターセンター(展示会場内)

メイン会場(みずのうえビジターセンター)では、生花店であった店舗の形状を活かし、オブジェや平面作品を展示しました。鈴木さんは水上ビルの商店のイメージに喚起され、玩具や縁起物(ダルマやクマの木彫り)などを展示。これらのうち、キューピー人形やウルトラマン人形をモチーフとする作品は、「みずのうえ作品展」のために手がけられた新作です。

みずのうえビジターセンター(作家滞在制作スペース)

展示スペースの奥では作家が週末午後の時間帯に滞在制作。どのように作品が手がけられているか、来場者は実見するだけでなく、作家と言葉を交わすことができる貴重な機会となりました。

はちみつ専門 伊藤食品店

創業70年以上に及ぶ老舗のはちみつ屋さんには、はちみつ色のダルマのオブジェを蜂の巣箱の上に設置。豊橋駅方面から水上ビルに来られる方々は、このダルマ落としのような不思議なディスプレイに足をとめて見入っていました。

pokkecise

小料理店を改装した古くて新しい心地良い美容院には、鏡の前に木彫りのクマをモチーフにしたオブジェを置き、鏡面にパズルのピース状の平面作品を貼り付け、かたわらにブロックのような小作品を並べるなど、遊び心ある展示を行いました。

無名 COFFEE STAND

シンプルでスタイリッシュなコーヒースタンドの店内には、50号の平面作品とそこから彫り出された絵具片を展示しました。春を感じさせる色彩は、傍らに置かれた木花のつぼみと調和していました。

上記の他、wonclo、伊藤文具店、冷や水などでも展示を行いました。

wonclo

伊藤文具店

冷や水


 

まちなか図書館「夜会」
展示期間の初日にあたる2月2日(金)には、まちなか図書館主催の「夜会」に鈴木淳夫さん、みずのうえ文化センターの山田晋平が招かれ、図書館の増田さん進行のもと、作家活動を行う経緯や豊橋で活動するということについて、フランクに語っていただきました。「夜会」を行うパフォーマンススペースには36名が参加。「夜会」始まって以来の盛況でした。


 

ワークショップ 「絵具を彫ってみよう~絵の具の下には何がある?」
2月11日(日)に開催されたワークショップは、作家が色を重ね塗りしたパネルで合作をつくるという贅沢なプログラム。20代から60代以上まで、定員を上回る17名が参加しました。

このプログラムの実施に当たり、鈴木さんは参加者が取り組むパネルに15回程度色を塗り重ね、丁寧に下準備をしてこられました。最後の1層を参加者が好きな色を塗って仕上げます。用意されたアクリル絵の具は色彩の基本となる白・黒・赤・黄・青の5色。絵の具を混ぜて各人が好きな色をつくります。色を塗り分けて画面を構成する参加者もいました。

絵の具が乾く間、作家によるスライドトークが行われました。目の前に用意されたパネルにどのような色層があるのか、という話から、層を重ねるということはどういうことか、何が連想されるか?というお話に。また、削り出された絵具片を用いてオブジェなどをつくる自身の作例から、貼り重ねるという現象にはどのようなものがあるか?と作家が問いかけます。自然現象を交えながら表現について思いめぐらせ、イマジネーションを膨らませました。

つぎに、場所を移して1階の展示会場へ。このたびの出品作品について作家が自らの言葉で紹介。彫り出した本体と、そこから派生したものとの相互関係や表現方法などについて詳しく説明が行われました。

彫刻刀を使って、制作開始。彫ってはじめてどのような色の層があったのかわかります。彫る形も参加者によってさまざま。丸型のドット、直線、曲線、模様などさまざまな形を彫刻刀で刻み、彫り出します。作家の作品のようなキレイな形にならないという悩みも寄せられました。

なお、パネル作品が完成した参加者は、自分の絵の具片を用いて別に用意したハガキに貼付けます。ここで、鈴木さんの主要な表現である「彫る」と「貼る」が体験できるというわけです。

上記の制作を行いながら、鈴木さんと文化センターメンバーの山田のトークに耳を傾けます。
山田は鈴木さんの表現活動が立体よりも平面を基盤とする「画家」であることを確認した上で、なぜ描く行為からこの表現手法に至ったのかを問います。鈴木さんはさまざまな技法を試みた上で、支持体に絵の具を置く「絵画」的表現と「工芸」的技法の狭間にあるこの手法を見出したとき、この方向性を極め探求したいと考えたそうです。試みたいと思う無数の表現が浮かび、平面から立体、三原色からモノクロームへと、様々なバリエーションを生み出しています。
支持体そのものの物質性を提示したルーチョ・フォンタナ、絵画の新たな地平を切り拓いたゲルハルト・リヒターにも話は及び、色彩を表現手法とする共通点から、みずのうえ文化センターの第1回ワークショップ講師である今井俊介さんとの対比へと話は展開。鈴木さんは完全性や均質化ではなく、作業そのものの時間が垣間見える痕跡を残したいと語りました。そうした意味では、手慣れた作業になる前の本日の参加者の仕事は好ましい表現である、とも。

最後に参加者の作品を一堂に並べて相互に鑑賞を行いました。同じ手法でありながら、それぞれ異なる表現があらわされたことに、鈴木さんも興味を引かれ、どのようなイメージで制作を行ったのか対話が行われました。彫り出すことで違う層のあらわれる今回の体験が、蓄積された時間と行為について想いを馳せる機会となったことでしょう。参加者からは「彫る集中する時間が心地よく、トークも興味深く、楽しかった」「鈴木さんの人となりも知ることができてよかった」「大きな作品を実際に見てみたい」といった意見が寄せられました。