1. HOME
  2. レポート
  3. 7月の水あび「プロレスを『知る』『楽しむ』」レポート

REPORT

レポート

7月の水あび「プロレスを『知る』『楽しむ』」レポート

7月の水あび「プロレスを『知る』『楽しむ』」が3連休初日の7月15日(土)、愛知県豊橋市の大豊商店街にあるみずのうえ文化センターで行われました。約20人が集まる中、「カブキキッド」こと塩見俊一さんがプロレスラーとしてのリング経験と、文化としてのプロレスをひも解く研究者としての視点を合わせて、プロレスの魅力に迫りました。

塩見さんは、2003年にアメリカでデビューした現役プロレスラー。所属する「ダブプロレス」は、大阪と広島を拠点にしています。そのプレースタイルは非常に個性的で、選手とDJ、VJが相乗効果的に会場を盛り上げ、観客を興奮の渦に巻き込みます。

また、戦後初期の日本におけるプロレスの成立過程について、スポーツ、武道、大衆文化などとの関わりを研究したり、プロレスをはじめとしたスポーツを文化的視点から研究したりしています。

この日、塩見さんは、プロレスの楽しみ方について、「観客が<楽しむこと>と、レスラーや担い手が<楽しませること>はプロレス文化の源泉」とした上で、「身近なヒーロー、ヒロインとして特定の選手や団体のファンになって勝ち負けや成長を楽しむ、スポーツや芸能にも通じる推す魅力がある」と語りました。また、「サーカスやパルクールにも似た、リスクのある高度な身体文化として楽しむ」こともアドバイス。さらに、世界最大のプロレス団体WWEを例に挙げて、「レスラーのキャラクターやプロレスの物語性は、他のスポーツとは異なる独特の魅力がある」と話し、プロレスはマニアだけのものではなく、誰でも楽しめることを訴えました。

他にも、戦後、日本でプロレスブームを巻き起こした力道山についても触れました。力道山はリングの上での「憎きアメリカ人を倒す日本人の姿」と、「シャツにスラックス姿でステーキを食べる姿」を見せることで、敗戦後の日本でくすぶるアメリカへの憎しみと憧れ、両方を吸い上げ、自らギミックとしてまとっていたと説明(詳細は吉見俊哉著「親米と反米」などを参照)。大衆の欲望を体現することで成功したイメージ戦略、さらにテレビ放映や街頭テレビも追い風となり、一大ブームを築き上げたことなどを説明しました。

後半では、モデレーターに元・愛知大学プロレス同好会でレスラーとして活躍したマチョ・ギャローズさんを迎え、参加者から質疑応答も交えたトークセッションを開催。

「得意技はどうやって決めるの?」という質問には、必殺技がダイビングセントーンの塩見さんは、「憧れのディック東郷と言えばダイビングセントーン。憧れと実用性で決めた」と話しました。また、「プロレスを子どもが楽しめるようにするにはどうすればいい?」と聞かれると、大学時代からプロレス興行を打ってきたマチョさんが、「子どもには、将来プロレスラーになりたいと思ってもらう、プロレス文化を広めてほしいと思って興行してきた。学校にチラシをまいたり、試合では子どもたちを前の方に座ってもらえるようにしたりした」と地道な活動の大切さを語りました。

 

さらに、「トップロープから飛んで、なぜ下の選手は避けないんですか?」と男の子から聞かれると、「技を受けても受けても立ち上がる強さを見せつけたい」と塩見さん。観客がプロレスに心震わせる重要な要素である、諦めない姿、技を跳ね返す力強いプロレスラーの矜恃を見せました。最後に座右の銘として、マチョさんは「今を生きる」、塩見さんは「人の人生に良い影響を与えられるのは、幸せなこと」と話しました。

 

リングを降りた2人が、プロレスの未来や嗜み方を語った今回の水あび。会場では、商店街のセレクトショップによるプロレスグッズの販売もあり、参加者はクラフトビールを飲みながらゆったりとした雰囲気の中で、いつもとは違う視点でプロレスを楽しんでいました。